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「硫黄島からの手紙」のアカデミー主演男優賞には、渡辺謙さんはノミネートされなかった。これは演技上のこともあろうけれど、いくらエンドクレジットの最初にKen Watanabeの名があるからといって、はたしてこの映画の主役が栗林中将かと問われると、はて?と首を傾げざるをえない。
「父親たちの星条旗」とのつながりもあるが、疑いもなくこの映画の主役は、二宮和也、加瀬亮、松崎悠希さんらが演じた、西郷、清水、野崎といった兵士たちである。その中でも栗林中将とのからみもあり生きて還った西郷が主役といって良いだろう。 二宮和也さんに対して、私はよく存じ上げないから先入観なしに観られたと思うが、非常に自然な演技で存在感のある俳優さんのように感じた。演技云々というより、私は、二宮さんたちに戦場に行った私の父や叔父たちを重ねて映画を観てしまった。 私の父は、志願して戦争に行ったわけではない。西郷らと同じように招集令状によっていやおうなく戦地に赴いた。父が巡ったのは、仏印、スマトラ島など南方戦線であったらしいが、兵士として帰還した。どのように戦争を生きたのか詳しいことは、私には分からない。父は、戦争のことについて語ることはなかったし、私も聞こうとはしなかった。今にして思えば、子供のときはともかく、成人して酒を酌み交わすことができるようになったとき、そこらへんのことをもっと聞いておくべきだと後悔している。私には自分のことが精一杯でそんな余裕などなかったのだろう。 父は軍歌のたぐいは歌うことはなかったが、「戦友」だけは、風呂の中でたまに口ずさんでいた。聞いていた私は、歌詞の中の「・・しっかりせよと抱き起こし、仮包帯も弾丸の中・・」とかの戦友の死を目の前にした状況は父も経験したのだと勝手に想像した。しっかりものの祖母は、父が戦争から生きて還ったことは喜ぶべきことだろうに、家務のことで頼りない父に対して「どうせ、戦闘のときは後ろの方ですくんでいたに違いない」などとつぶやいたりしていた。祖母の影響か、私も父は決して「真っ先かけて突進」などはしなかったに違いない、と思ったことである。 5歳ほどは父より年下だった下の叔父は尉官として帰還した。父ら三人兄弟の実家での宴席で、叔父が酔った勢いで腹を出して切腹の作法はこうだと演じてみせたことがあった。「切腹のまねなんかして・・・」と祖母は眉をひそめていた。叔父は、さらに「天皇陛下万歳」と手を挙げてみせた。 物心ついたときに大正デモクラシーの空気を吸っていた父と、物心ついたときには既に昭和の代であった叔父とでは、わずか数年の違いでもこと軍事、思想の面に関しては確かに世代が違っていたと私は思う。 母方のほうの叔父は、帰還したときはまだ二十歳そこそこだったはずだ。中支戦線に赴いた叔父は、晩年は、「中国はいいですなぁ」というのが口ぐせだった。戦時下の中国のどこが良かったのだろう。叔父にとっては、貴重な青春の時を過ごした思い出の土地ということだったのだろうか、そんなに良いところなら、金も暇もあった晩年に中国旅行でもしたら良いのに、最初の赴任地の台湾に母を伴って旧婚旅行をした父と違い、質素な叔父はついに再び中国を訪れることもなかった。 はたして、戦地でどんな生活を送ったのか、少なくとも敵陣に日章旗を掲げるような活躍は決してなかった父たちであろう。いずれにせよ父や叔父たちは戦死することなく運良く生還した。復員した父は当時としてはやや婚期の過ぎていた母と結婚した。そして、私が在る。 下の叔父を見送った父は、平成の世を見ることなく昭和のうちにこの世を去り、母方の叔父も数年前に亡くなってしまった。 私は思う、インパール作戦にかり出されることもなく生還した父は、確かに運が良かったのだろうけれど、二宮和也さん演じる西郷と同じく父は自覚的に生きて還ろうとしたのではなかったか、と。私は、西郷に父の姿を重ねてしまうのである。 フィクションも混じってはいるけれど、二宮和也さんのように、思わず「これは事実です。」と叫びたくなる、「硫黄島からの手紙」はそんな映画である。
by miki-hirate
| 2007-02-12 13:29
| 硫黄島からの手紙
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